CAHILL WEB ケイヒル一族に関するデータベース

アトルバロ新聞

1969年11月19日

グレース・ケイヒルはアトルバロの街から出ていくべきだ!

執筆者:J.R. ティップスクーチ

わたしは「アトルバロ新聞」のコラム執筆者だ。長いあいだ、本紙で意見を述べてきたが、これほど激しい怒りをコラムにぶつけるのは初めてだ。

グレース・ケイヒルは、この美しい街アトルバロから出ていくべきである。わたしは強く要求する。この街の全住民のために、ケイヒル氏にはどこか遠い場所……北極あたりに引っ越していただきたい。

これまでも、ケイヒル氏がばかげた騒ぎを起こすたびに、騒動の顛末を毎週のようにこのコラムで取りあげてきた。たとえば、2週間も続いた真夜中のパーティーや、失敗に終わった危険な科学実験などの事件があった。

だが、わたしが今日お伝えするケイヒル家の最新ニュースは、屋敷に新しく設置されたセキュリティ・システムについてである。

先週、わたしの家に、グレース・ケイヒルあての手紙がまちがって配達された。よき隣人として、わたしは本来の受取人であるケイヒル氏の屋敷まで、その手紙を届けにいくことにした。よもや命の危険に遭遇するはめになろうとは、これっぽっちも予想せずに!

わたしは重い足を引きずりながら、ケイヒル家の敷地につづく坂道をとぼとぼ登った。(わたしはケイヒル家の人間が街の住民たちを見下ろす場所に住んでいることが、昔から気に食わなかった!)ようやく当家の要塞屋敷にたどり着いたときには、息がゼイゼイと乱れ、立ち止まって呼吸を整えなければならなかった。

よろめく体を支えようと、門に手をのばした次の瞬間、わたしの体にビリッと衝撃が走った! なにかに感電した! あのいかれた変人、グレース・ケイヒルが、敷地の入口に電流の流れる門を設置したのだ。

ケイヒル氏は、近所の住民たちを何だと思っているのだろう? 敷地内へ入りこもうとする迷子の仔牛とでも思っているのか!?

感電のショックでわたしが叫び声をあげると、今度は音声センサーが作動した。どこにもスピーカーが見当たらないのに、ロボットじみた声がくり返し流れはじめた。「侵入者警報、侵入者警報」。わたしはどなりかえした。「侵入者なんかじゃない! 近所の者だ!」少し間をおいてから、ロボットの声がこたえた。「音声認識システム作動。来客確認。J.R. ティップスクーチ」。門がカタカタと開き、ふたたびロボットの声が流れた。「お客様。東側の歩道を通って、正面玄関までお進みください」

門の中を見ると、目の前に歩道が3本伸びていて、広々とした芝生の上を歩けるようになっている。だが、どれが東側の歩道なのか見当もつかない! なにが東側の歩道だ? これはいったい、どんなばかげたゲームなんだ? わたしは手紙をほうり投げて帰ろうかと思ったが、グレースにひとこと文句を言ってやらなければ気が収まらない! どの歩道を通っても大丈夫だろうと判断したわたしは、右へ向かった。

ところが、これがまちがいだった! 足が地面の砂利に触れた瞬間、さっきとは別の警告音が鳴りひびき、足元の地面がパカッと開いた。わたしは、その穴の中のコンクリートの上にドスンと落下した。そこは地下牢だった。

冗談で言っているのではない。グレース・ケイヒルの敷地には、牢獄があるのだ! これは違法行為だ。ここは12世紀のイングランドでなく、20世紀のアメリカ合衆国だ。 わたしは声を張りあげて叫びつづけた。すると、グレースの娘ホープがひょっこり現れた。

「お嬢ちゃん、おじさんをここから早く出してくれ!」わたしはどなった。だが、少女がおびえた表情を浮かべているのに気づいて、口を閉じた。グレース・ケイヒルは権威をひけらかす社会病質者だ。でも、この少女がそんな母親のもとに生まれたのは、本人のせいではない。「ほんとうにごめんなさい、ティップスクーチさん」。ホープが言った。「パパが死んでから、ママは身のまわりの安全のことを、ちょっと心配しすぎているの。でも、これは少しやりすぎよね」

わたしは何も言わずに手紙をホープに押しつけ、裏口から敷地の外へ出た。あんなに激しく腹を立てたのは、生まれて初めてだった。

グレース・ケイヒルは、いったいどんな理由があって、あのようなセキュリティ・システムを導入したのか? 夫のナサニエル氏が飛行機の墜落事故で亡くなったことは、だれもが知っている事実だ。 グレース・ケイヒルは、いったい何を心配する必要があるというのだろう?

グレース・ケイヒルが街の学校や図書館に寄付した金額など、わたしにはどうでもよい。だれかがけがをする前に、彼女はアトルバロの街から出ていくべきだ。


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